日本物理学会実験核物理領域 第11回若手奨励賞受賞者についてご報告致します。
核物理委員会のもとに設置された選考委員会で審議の上推薦し、2016年10月8日開催の日本物理学会理事会において、加藤悠司氏(名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構)の受賞が承認されました。
●加藤悠司氏(名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構)
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以下は、対象論文と受賞理由です。
Y. Kato et al. (Belle Collaboration), "Search for doubly charmed baryons and study of charmed strange baryons at Belle", Phys. Rev. D 89, 052003 (2014)
Y. Kato et al. (Belle Collaboration), "Studies of charmed strange baryons in the ΛD final state at Belle", Phys. Rev. D (掲載決定)
受賞研究は、高エネルギー加速器研究機構での電子陽電子衝突型実験 Belle で 取得されたデータを用いたチャームクォークを含むバリオン状態(チャームバリオン)に関する研究である。第1論文においては大量のデータを再解析することによりチャーム量子数2を持つバリオンΞcc+(+)の探索を行った。発見はできなかったものの生成断面積に対してこれまでで最も厳しい上限値を得、理論予想に近いところまでBelle実験の感度が到達していることを示している。また第2論文では、チャームバリオンΞcの2つの励起状態に関してチャームクォークが終状態のバリオンに含まれる崩壊と中間子に含まれる崩壊の分岐比を世界で初めて測定し、その分岐比が2つの状態で大きく異なることを示した。これは、これら2つの状態の構造解明に大きく寄与する結果であり、ハドロンの構造を記述する自由度の探索という視点でも大きな意味を持っている。さらに、未発見であった中性パートナーΞc0の発見やΞc+の崩壊幅の精密決定などの成果をも得ている。
加藤氏はこのチャームバリオンに注目したデータ解析と論文執筆をほぼ一人で行って筆頭著者として発表しており、その功績は大きい。また、素粒子物理学が主目的であるBelle実験においてハドロン物理学の視点での研究成果を引き出す、特色ある研究者として同氏はすでに認知される存在になっており、若手奨励賞にふさわしい将来性ある研究者であると評価できる。
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おめでとうございます.
加藤氏には、来年3月に大阪大学で開催される第72回年次大会において若手奨励賞受賞記念講演を行っていただきます。
選考委員長 野呂哲夫