第14回日本物理学会 若手奨励賞(実験核物理分野)受賞者
原子核談話会 - 日本物理学会若手奨励賞

日本物理学会実験核物理領域第14回若手奨励賞受賞者についてご報告致します。
核物理委員会のもとに設置された選考委員会で審議の上推薦し、2019年10月19日開催の日本物理学会理事会において、小林信之氏(大阪大学)・谷内稜氏(ヨーク大学)・野中俊宏氏(華中師範大学)の受賞が承認されました。
 おめでとうございます.
 3氏には3月に名古屋大学で開催される第75回年次大会において若手奨励賞受賞記念講演を行っていただきます。
以下は、対象論文と受賞理由です。
                                        選考委員長 岩崎雅彦

小林 信之 氏
受賞対象論文
“Observation of a p-Wave One-Neutron Halo Configuration in 37Mg"
N. Kobayashi, T. Nakamura, Y. Kondo et. al., Phys. Rev. Lett. 112, 242501 (2014)
"One-neutron removal from 29Ne: Defining the lower limits of the island of inversion"
N. Kobayashi, T. Nakamura, Y. Kondo et. al., Phys. Rev. C 93, 014613 (2016).
 原子核を構成する陽子数や中性子数が特定の値(魔法数)を持つとき、原子核の基底状態は通常安定になり球状の原子核形状を取る。しかしながら、中性子数が魔法数20のときでも大きな変形があることがわかり、閉殻を超える励起準位の波動関数が基底状態に混じった“逆転の島”と呼ばれる原子核群を形成することが知られている。小林氏等は短寿命核ビーム29Ne, 37Mgの中性子を質量数が大きく異なる標的によって剥離させ、反応断面積、剥離後の運動量分布および脱励起γ線を使って、剥離された中性子の持つ軌道角運動量、終状態の配位混合率を求めた。それにより、37Mgがp軌道の中性子ハロー構造を持つことが明らかになり、29Neではその基底状態が侵入状態のスピン・パリティ(3/2-)を有しており、共に「逆転の島」に属することが示された。これらの研究で使われた、異なる標的によってクーロン分解反応と核力分解反応を起こさせ、同時に脱励起γ線を測定するという実験手法は、生成率の低い中重核領域の中性子過剰核に対する核分光測定法として今後大いに利用されると期待される。
以上のことから、小林信之氏は日本物理学会奨励賞(原子核談話会新人賞)に相応しいとの結論に至った。

 

谷内 稜 氏
受賞対象論文
"78Ni revealed as a doubly magic stronghold against nuclear deformation"
R. Taniuchi, C. Santamaria, P. Doornenbal et. al., Nature, 569, 53-58 (2019)
 原子核を構成する陽子数と中性子数が共に特定の値(魔法数)を持つときに、原子核の基底状態は安定になり球状の原子核形状を取る(2重閉殻)ことは古くから知られていた。この事実を基礎として、現在の殻模型が成り立っていると言っても良い。しかしながら、従来知られている2重閉殻は原子核の安定線近傍に限られていた。本研究は、原子核の安定線から遠く離れた陽子数28、中性子数50を持つ78Ni原子核(とその励起状態)を陽子ストリップ反応で作り出し、励起状態からの脱励起γ線を観測することで2.6 MeV に2+の状態があることを明らかにした。この励起エネルギーは周辺原子核に比べ高く、中性子過剰原子核で初めて2重閉殻構造を持つことを示した。また、(p, 2p), (p,3p)反応での励起状態の生成強度の違い、核模型計算との比較から、2.91 MeVに見いだされた励起準位が変形2+状態であることが示唆された。これが事実であれば、78Niにおいても形状共存が進んでいること意味し、原子核形状形成についての理解を深めることに繋がる。この結果は、最先端加速器を持ってしてもなお統計量が限られる中で、注意深い解析手法を駆使することにより得られたものであり、高く顕彰するに値する。
以上のことから、谷内稜氏は日本物理学会奨励賞(原子核談話会新人賞)に相応しいとの結論に至った。

 

野中 俊宏 氏
受賞対象論文
"First measurement of the sixth order cumulant of net-proton multiplicity distributions in = 200GeV Au+Au collisions at the STAR experiment"
Toshihiro Nonaka, PhD thesis, Graduate School of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba

高エネルギー重イオン衝突により実現される高温状態においては、原子核物質は核子中のクォークとグルーオンが色電荷による閉じ込めから開放され準自由粒子として振る舞う「クォーク・グルーオンプラズマ(QGP)」相へと相変化すると考えられている。それに伴って、有限温度密度領域に一次相転移からクロスオーバーへと変わる臨界点が存在することが示唆されているが、それを直接測定し、QCDの相図を実験データから定量的に決定することが喫緊の課題となっている。近年、重イオン衝突事象がQGP臨界点近傍を通過した際に「高次の揺らぎ形状を測定することで、相転移由来の相関長の変化を捉えることができる可能性」が理論的に指摘され、粒子放出数分布の高次異方性とその衝突エネルギー・衝突中心度依存性が注目を集めており、様々な衝突エネルギーで研究されようとしている。
野中氏は博士論文の中で、重イオン衝突からの正味陽子(陽子-反陽子)数分布の高次異方性の中心衝突度依存性を、高効率(従来の解析手法に比べて2桁の効率化)で精度良く決定する新たな解析手法を開発した。野中氏は、この解析手法を 200GeV 金-金データに適用し、初めて6次のキュムラントを導出することに成功した。この解析手法は、同実験グループだけでなく他の実験グループからも注目を集めている。
以上のことから、野中俊宏氏は日本物理学会奨励賞(原子核談話会新人賞)に相応しいとの結論に至った。

 

以上

 

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