第15回日本物理学会 若手奨励賞(実験核物理分野)受賞者
原子核談話会 - 日本物理学会若手奨励賞

日本物理学会実験核物理領域第15回若手奨励賞受賞者についてご報告致します。
核物理委員会のもとに設置された選考委員会で審議の上推薦し、2020年10月に開催された日本物理学会理事会において、関畑大貴氏(東京大学)・増田孝彦氏(岡山大学)・田中泰貴氏(オーストラリア国立大学)の受賞が承認されました。
 おめでとうございます。
 3氏には3月にオンラインで開催される第76回年次大会において若手奨励賞受賞記念講演を行っていただきます。
以下は、対象論文と受賞理由です。
                                        選考委員長 岩崎雅彦

関畑 大貴 氏
受賞対象論文
“Measurement of neutral mesons and direct photons in pp and Pb-Pb collisions at √𝑠_NN= 5.02 TeV”
Daiki Sekihata, Ph.D. Thesis, Hiroshima University https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/en/00047819 

上記博士論文を対象論文として、関畑大貴氏を日本物理学会奨励賞(原子核談話会 新人賞)候補者として推薦する。
 
候補者はLHCのALICE実験グループの一員として、PHOS(PbWO4 全吸収 型電磁カロリメータ)の読み出しシステムを分担している。上記論文では、重心 エネルギー√𝑠_NN = 5.02 TeV (核子対当たり) 実験データに関して、PHOS を中心 に据えた解析を行い、陽子-陽子衝突と鉛-鉛衝突の比較から、重イオン衝突にお ける高い横運動量の中間子の抑制効果が2.8 TeV 衝突と同程度であることを発見し、高横運動量の直接光子のスペクトルが摂動論的QCD 計算と比較的よく一致する(無矛盾な結果である)ことを確認している。また、観測された光子分布の低エネルギー側に、π0・η中間子起源の光子収量を上回る形で、衝突初期のエネ ルギー密度の情報を担う熱放射光子の兆候も捉えた。熱放射光子は、衝突データがハドロン相図のどこを調べているかを定量的に対応させる上で重要となる。 

関畑氏は研究遂行の中で、大規模実験グループの中で重要な役割を付託されるなど、そのコミュニケーション能力・存在感・リーダーシップが高いと判断される。本研究を起点に、今後、真の独自性を持った研究者として候補者がどのように将来を切り開いていくか、期待を持って注目したい若手研究者である。

 

増田 孝彦 氏
受賞対象論文
"X-ray pumping of 229Th nuclear clock isomer "
T. Masuda, A. Yoshimi, A. Fujieda et al. Nature 573, 238 (2019)

上記論文を対象論文として、増田孝彦氏を日本物理学会奨励賞(原子核談話会 新人賞)候補者として推薦する。 

原子時計は原子準位間の励起エネルギーと光の振動数との関係を活用し、原子準位間の高精度スペクトロスコピーを行うことで、分光した場所での精密な時間分解能を得ることを実現している。一方で、トリウム229 アイソマー準位は原子核励起準位の中でも特異的に励起エネルギーが小さいと信じられてきた。 これは、現在の原子時計の時間決定精度を飛躍的に押し上げる可能性があるツールとして以前から注目されている。しかし、励起エネルギーの十分な精度の実測がないことが開発研究のボトルネックとなっていた。 

増田氏らは、SPring-8 を利用し、高励起状態からの脱励起ガンマ線を観測することで、その差分から十分に高い精度でアイソマー準位エネルギーを実測し、上 記のボトルネックの解消に貢献した。マックス・プランク研究所のPeter Thiroff グループの独立な研究論文と同日にNature に投稿され、本対象論文(Matsuda et al., Nature 573 (2019) 238)の次の記事 (Seifele et al., Nature 573 (2019) 243) と合わせて掲載されている点も印象深い。  この研究は、超精密原子核時計、相対論的測地学、ダークエネルギーの検証 など、量子エレクトロニクスという応用範囲が広い原子核を用いた新たな研究分野の創生を目指す上でのランドマーク研究であり、学術的価値は極めて高い。 候補者は、時間・エネルギー情報を高精度に測定できる改良型の APD 検出器を開発し、データ収集システムの高度化も独自に成し遂げるなど、研究に対する寄与は極めて高い。一方で、原子核時計の実現へ向けての候補者らの今後の取り組みに期待する。 

 

田中 泰貴 氏
受賞対象論文
"Determination of Fusion Barrier Distributions from Quasielastic Scattering Cross Sections towards Superheavy Nuclei Synthesis"
T. Tanaka, Y. Narikiyo, K. Morita et al. J. Phys. Soc. Jpn. 87, 014201 (2018)
"Study of Quasielastic Barrier Distributions as a Step towards the Synthesis of Superheavy Nuclei with Hot Fusion Reactions"
T. Tanaka, K. Morita, K. Morimoto et al., Phys. Rev. Lett. 124, 052502 (2020)

 

上記2論文を対象論文として、田中泰貴氏を日本物理学会奨励賞(原子核談話会 新人賞)候補者として推薦する。
 
田中氏は、未知重元素を人工的に合成する最適反応条件を実験的に導出するため、理研 GARIS を使って入射エネルギーを変化させながら様々な粒子を標的核に照射することで、クーロン障壁を越えられず散乱された粒子の準弾性散乱 断面積を測定し、融合障壁分布と蒸発残留核生成断面積との間に相関があることを見出した。この結果は、田中氏らが新たに開発した測定手法によって、新元素合成に重要な軌道角運動量移行がほぼゼロの成分の情報を取得できたことも 大きく貢献している。上記の2つの論文として発表された研究成果は、119番以降の新元素合成研究に向け、極めて重要な知見を与えると期待される。 

田中氏は、博士学位取得後、超重元素創成の核反応メカニズムの研究で知られる Australian National University のタンデム加速器施設で自由に研究できる地位を得て研究者として大きく飛躍しようとチャレンジしている。  田中氏がこれらの論文で導いた新元素合成の最適条件の真価が問われるのは、 今後の成果次第の部分があることは否めないものの、高く評価されるに相応しい業績である。今後の同氏を中心とした果敢な取り組みを後押ししたい。 

 

以上

 

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