第9回日本物理学会 若手奨励賞(実験核物理分野)受賞者
原子核談話会 - 日本物理学会若手奨励賞

2015年日本物理学会実験核物理領域:若手奨励賞の受賞者についてのご報告です.

核物理委員会のもとに設置された選考委員会で審査の上,
10月11日に開催された日本物理学会理事会において,以下のお二人の受賞が承認されました.

王 恵仁氏 (大阪大学核物理研究センター)

研究テーマ:「(p,d)反応による16O 原子核におけるテンソル力の研究」

高峰 愛子氏 (青山学院大学理工学部)

研究テーマ:「中性子ハロー核11Be+の超微細構造定数」

 

おめでとうございます.

受賞者には、来年3月に早稲田大学で開催される第70回年次大会において若手奨励賞受賞記念講演を行っていただきます.

選考委員長 早野龍五

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以下,お二人の受賞理由です

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王 恵仁氏 (大阪大学核物理研究センター) 「(p,d)反応による16O 原子核におけるテンソル力の研究」

原子核を構成する核子間にはパイ中間子交換過程により強いテンソル力が働き、その一方で核子のクォーク構造のために強い短距離斥力が働く。これらの力は高い運動量成分を原子核に持ち込み、それぞれに重要な働きをして自己束縛系である原子核が作られる。しかし、これらの力を陽に取り込む理論的な取り扱いは非常に難しく、これまでの理論では高い運動量成分の効果をくり込んだ有効相互作用(G行列)を使って核構造が計算されていた。このような理論では原子核の波動関数は低い運動量成分のみで表現されている。したがって、これまではテンソル力などが作り出す高い運動量成分はほとんど注目されて来なかった。

王氏はテンソル力の原子核物理での重要性に着目し、この高い運動量成分を定量的に測定する実験を考案した。シェル構造が単純である酸素16をターゲットとし、テンソル力が作り出す高い運動量成分を狙って高エネルギーの(p,d)反応を使うことを提唱した。受賞対象になっている論文では核物理研究センターの200, 300, 400MeVの陽子を原子核に照射し、運動量移行が400MeV/c位になる角度で重水素を測定し励起スペクトルを得た。その結果は驚くべきもので基底状態と低い励起状態である1/2-や3/2-のpシェル状態のエネルギー依存性に較べて低い励起エネルギーをもつ1/2+や5/2+の状態のエネルギー依存性は異常に大きいことを発見した。まさしく、ポジティブパリティー状態はより高い運動量成分を多く含んでいることを示唆するデータを得た。現在は16Oの高運動量成分を取り込む理論計算は存在しないので、単純な考察のもとに高い運動量成分を持ち込んだ計算を行い、実験に対応するエネルギー依存性が得られることを示した。低い運動量線分のみを考慮した核反応理論ではこのようなエネルギー依存性が得られないことも議論している。

テンソル力の重い核での理論構築は現在急ピッチで進められてはいるものの、現段階で全く新しい考え方を持ち込み、テンソル力が作り出す高い運動量成分を実験的に明らかにする研究に着手し、顕著な研究成果を得たことは高く評価すべきである。王氏は東京大学で博士号を修得し、理研でポスドクを経験した後、大阪大学核物理研究センターの助教として着任し、原子核物理の中心的な実験研究者として活躍している研究者で、着実にその研究者としての力を発揮している。さらには、より高いエネルギーでの高運動量成分の実験をドイツのGSIで行い、このプロジェクトの系統的な研究に着手している。今回の対象論文の成果は素晴らしいものであり、新しい原子核物理に切り込み、さらに現在もそれを発展させていることは物理学会若手奨励賞としてふさわしいと考え、強く推薦する。

 

 

高峰 愛子氏 (青山学院大学理工学部) 「中性子ハロー核11Be+の超微細構造定数」

原子核の電気的広がり、すなわち陽子分布の大きさを示す荷電半径は、不安定核に対しては精密レーザー分光による同位体効果測定から核モデルに依存せず決定されている。特に、近年軽い核領域での中性子ハロー核を含む荷電半径の測定が盛んに行われてきた。
 一方、中性子は電荷を持たないためにその分布の広がりを直接測定することは難しかったが、中性子ハロー核である11Be は磁気能率のほとんどをハロー中性子が担うため、ボーア・ワイスコップ効果を用いて中性子広がりを測定できる可能性があるが、そのためには、11Beの磁気双極子超微細構造定数の測定が必要である。
 高峰氏は、
1. 理化学研究所核破砕片分離器から得られる高エネルギーの11Be+をガス中で減速し、低速ビームとして引き出し、
2. 八重極イオンビームガイドで超高真空領域へ導いてイオントラップ中に捕獲し、
3. これをレーザー冷却し、
4. マイクロ波・レーザーの二重共鳴法により,超微細分裂を精密に測定した。
これにより、原子基底状態2s2S1/2の磁気双極子超微細構造定数A11をレーザー・マイクロ波二重共鳴法により-2677.302 988(72) MHz と、3×10-8の高精度で決定した。
 これは、電磁相互作用による11Beのハロー中性子分布半径の決定の道を拓く極めて重要な結果である。高峰氏は、この実験に必要な装置の開発の全てに主導的な役割を果たした。
 現時点では、高峰氏らが求めた11Beの磁気双極子超微細構造定数と、現在までにβ-NMR法で測定されている11Beの核磁気モーメントの比率、および安定核$9Beの磁気双極子超微細構造定数と核磁気モーメントの比率から、超微細構造異常を求めると、-2.2(4.7)×10-4となり、有意な値は得られない。これは、11Beの核磁気モーメントの精度が不足しているためである。高峰氏らは、強磁場中でのレーザー・マイクロ波・UHF波三重共鳴法から11Be+の核磁気モーメントを高精度に決定する計画を進めており、今後の発展も大いに期待される。
 今回の対象論文の成果は素晴らしいものであり、新しい原子核物理に切り込み、さらに現在もそれを発展させていることは物理学会若手奨励賞としてふさわしいと考え、強く推薦する。

 

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