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クォーク・グルーオンの世界

核子とクォーク
左:通常原子核物質、右:クォーク・グルーオン・プラズマ

私たちの日常下では、原子は電子と原子核から構成されていて、電気的な力によって束縛されています。通常の原子核は、陽子と中性子(総称して核子と呼ぶ)から成り立ち、これらの核子は3つのクォークから構成されています。クォークから構成される粒子(=ハドロン)には、核子などのように3個のクォークからなる粒子のほかに、クォーク・反クォーク対から成る中間子があります。これらのクォークは、ハドロンの中に強く束縛されており、けっして単独で観測されることはありません(「クォークの閉じ込め」)。 強い相互作用を記述する「量子色力学(QCD)」によると、 強い相互作用をおこなう粒子(ハドロン)の集まりは、高温(150-200 MeV)高密度 (>1 GeV/fm3)の極限条件下ではクォークとグルーオンが閉じ込めから開放された新しい物質相「クォーク・グルーオン・プラズマ」(QGP)へ相転移することが予想されています。

我々の質量の大部分は原子核を構成している核子で与えられます。核子を構成するクォークの質量はせいぜい20×10-30kgと見積もられていて、クォーク3個を集めても陽子の質量1700×10-30に遠く及びません。我々の質量の大部分は、QCDの強い相互作用により引き起こされる「カイラル対称性の自発的破れ」(2008年ノーベル物理学賞)によって生成されていますが、クォーク・グルーオン・プラズマは、カイラル対称性も回復された場として、質量獲得機構に重要な知見を齎します。

核子とクォーク

宇宙の進化とQGP. QGPは数マイクロ秒後の宇宙に存在したと考えられる。

ビックバン宇宙論によると、現在の我々の宇宙の年齢は 137 億年と言われています。 現在の宇宙論では、t = 10-37 秒に宇宙のインフレーション急激膨張が生じ、 その後、素粒子であるクォーク対やグルーオン、光子、電子などのレプトン が生成されたと考えられています。 相転移温度に達する t = 10-6 - 10-5 秒 (数μ秒から数10μ秒; 1μ秒は 10-6 秒)では、 これらの素粒子はばらばら、つまりクォークとグルーオンがプラズマ状態であったと考えられています。 クォーク・グルーオン・プラズマとは、 ビックバンから数10マイクロ秒後の宇宙初期に存在したと考えられる、 「素粒子の火の玉」であり、初期宇宙の進化やハドロン生成に重要な知見を齎します。







ハドロンの相図
QCD物質の相構造と高エネルギー重イオン衝突

右図は、横軸を密度、縦軸を温度としたときの、 原子核物質の相図を表しています。水が温度や圧力の変化によって、固体、液体、気体など様々な形態(相)を取る様に、原子核や 陽子、中性子などの物質相も、高温度・高密度領域ではクォーク・グルーオン・プラズマが、低温・超高密度領域ではカラー超伝導相などが実現されていると考えられています。 このようにクォーク・グルーオン・プラズマを理解することは、QCDの物質相を解明する上でも非常に重要となります。

それではこのQGPを実験室上で作るは出来るのでしょうか?もちろん宇宙ビックバンを 再現することはできませんので、生成できるのは非常に小さな時間的、空間的スケールになります。そこで考えられたのが、高エネルギー重イオン衝突実験です。重イオン、すなわち鉛などの重い原子核同士を高エネルギーで衝突させ、 衝突直後に高温・高密度物質のクォーク・グルーオン・プラズマを生成します。クォーク・グルーオン・プラズマの生成を目指す実験が1980年代より始まりました。現在では、CERN 研究所のLHC 加速器や、ブルックヘブン国立研究所の RHIC 加速器を用いて、この様な実験が行われています。 日本の多くの研究機関が、BNL-RHIC加速器を用いた国際共同PHENIX実験やCERN-LHC加速器を用いた国際共同ALICE実験に参加し、「クォーク物質の物性科学」に関する最先端の実験研究を展開しています。

 

もっと詳しく知りたい方は、QCD Matter Open Forumのページへどうぞ!

 




RHIC


国際共同RHIC-PHENIX実験(13ヶ国、60 研究機関、600 研究者が参加)


Member


国際共同LHC-ALICE実験(33ヶ国、113 研究機関、1000 研究者が参加)


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