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独立行政法人理化学研究所
仁科加速器研究センター
初田量子ハドロン物理学研究室

吉田 信介

Shinsuke Yoshida

主な経歴

2007年3月

新潟大学 理学部物理学科 卒業

2009年3月

新潟大学大学院 自然科学研究科
博士前期課程修了

2011年9月

新潟大学大学院 自然科学研究科
博士後期課程修了

2011年10月~

新潟大学 自然科学研究科
日本学術振興会特別研究員(PD0

2012年4月~

筑波大学数理物質系 研究員

2013年4月~

独立行政法人理化学研究所
仁科加速器研究センター
初田量子ハドロン物理学研究室
頭脳循環研究員

摂動論的QCDに基づいた高エネルギーハドロン散乱過程の理論的研究

粒子加速器を用いた実験のデータから
核子の性質を読み解いていく

 原子核は「核子」と総称される陽子と中性子から成っている多体系ですが、さらに細かく見ていくとその核子もクォークとグルーオンと呼ばれる、より基本的な粒子からできています。今日ではクォーク・グルーオンは「量子色力学(QCD)」という強い相互作用を記述する理論に従って運動することが知られています。原理的には、QCDを計算すれば核子の性質もクォーク・グルーオンの運動の効果としてとらえることが可能なはずですが、QCDはその強結合性ゆえに解析的に計算することが非常に困難で、クォーク・グルーオン多体系が織りなす世界の全貌は未だに解き明かされていません。私は粒子加速器を用いた高エネルギー過程の解析を通して、核子の性質をQCDに基づき理解する研究を行っています。前述のとおり、クォークとグルーオンは強い相互作用で結合していますが、QCDが持つ「漸近的自由性」という性質のおかげで高エネルギー中では結合が弱くなりQCDを解析的に解くことが可能になります。我々が行っているQCDの解析計算と核子を用いた高エネルギー実験のデータを比較することで核子の性質をクォーク・グルーオンの運動として理解することが可能になるわけです。

 実は私がこの研究を始めたのは、たまたまといってもいい理由です。新潟大学では、3年生の終わり頃に研究室訪問を行います。本来、研究室訪問は、各研究室の研究内容を聞き、自分が興味を持てそうな話題を見つけるために行うものです。ですが、私の場合、研究室を訪れるたびに聞く最前線の物理の話題、その全てに興味を持ってしまい、かえって志望研究室を絞ることができなくなってしまったのです。大袈裟でなく志望研究室が毎日のように変わっていました。友人にも「ころころ変わるね」と言われたことを覚えています。結局、物理の内容だけでは決められず、次に「雰囲気のいい研究室」を選ぼうと考えました。私にとっての「雰囲気のいい研究室」とは、和気藹々としているという意味ではなく、研究をバリバリこなし、活動している空気が漂っている研究室という意味です。当時の新潟大学原子核理論研究室はスタッフや院生の数も多く、他大学で学位を取ったばかりのポストドクターが2名いました。「わざわざ他大学からポスドクが来るぐらいだから、この研究室は国内的に評価されているに違いない」と考えて、原子核理論研究室を選んだのです。

 結果的に学生時代は自分が興味を持てる研究課題に取り組むことができ、学位取得後も自分の興味が赴くまま研究を続けられています。理由はどうあれ、この研究と出会ってよかったな、と実感しています。

問題を解く瞬間の喜びのために
あらゆるアプローチを試していく

 研究でやりがいを感じるのは、うまくいかずに何か月も悩んでいた問題が解けた瞬間ですね。解ける直前で興奮のあまり計算している手が震えたり、人目もはばからず「キターッ!」とか叫ぶこともあります(笑) そのため、私が毎日の研究で心がけているのは、「うまくいかないときほど手を動かして計算する」ことです。私はうまくいかない状態が続くと、机に向かうのもおっくうになったり、目前の研究を放り出して別の研究を始めようとしたり、関連論文を大量に読み漁っただけで仕事をした気になったりしてしまいます(苦笑) こういうのはほとんど無意味なただの現実逃避ですね。経験上、問題が解けるかどうかは手を動かして計算して考え抜いた時間で決まっているので、うまくいかなくても別のことに時間を費やさず、とりあえずダメもとでも思いついたアプローチを片っ端から試すことにしています。意外にもダメもとが解決の糸口になることが多々あるんですよ。

誰も考えなかったような問題を考え出し
自分の力でその解答を見い出したい

 研究をしていて難しさを感じるのは「面白い問題を考えだす」ということに対してです。過去に誰もやったことが無いような面白い研究をしようと思ったら、まずは面白くて非自明な結果が出てきそうな問題を考えだすことから始めなければいけません。学生時代は、どちらかというと問題を解く能力を問われることが多かったように思いますが、研究者として独り立ちしてやってゆくなら自分一人で問題を作り出していく能力が必要不可欠。良質な問題を作り出すことの難しさは学位を取って以降日々痛感しています。

 ですからいつかは、私自身が「長い時間と情熱を注ぎたい」と思えるほど面白そうな基礎的問題を考え出したいですね。そして、その問題解決に没頭したい。私自身がその問題に解答を与えることができれば最高ですね。

難解だからこそ面白く、やりがいがある
そして人類未到の領域への挑戦がある

 原子核分野の特徴の1つは、標準理論の中で難しくも奥深いQCDを基礎とした分野であることだと思います。原子核分野には、私のように高エネルギーQCDの研究を行うグループもあれば、核子を基本粒子とした伝統的な核構造研究を行うグループも存在します。互いに強い相互作用を基礎とした現象であるにもかかわらず扱う概念が全く異なるというのは、まさにQCDが多様な側面を持つことの証だといえます。現在の原子核分野は、高エネルギー重イオン衝突での超高温状態の実現、自然に存在しない不安定核の生成など様々な意味での極限状態の物理を探索しています。人類未踏の領域に進むことで、またQCDは我々が予想しえなかった新たな側面を見せてくれることになるでしょう。強い相互作用を基礎とした様々な現象をQCDを紐解き理解することは現代物理においても極めて難しい問題の1つ。ですが、それだけに研究者にとっては面白く、やりがいのある研究対象だと思っています。


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