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高エネルギー加速器研究機構

永田桂太郎

Keitaro Nagata

主な経歴

2007年3月

大阪大学RCNP

2007年4月~2009年3月

台湾中原大学

2009年4月~2013年3月

広島大学

2013年4月~現在

高エネルギー加速器研究機構

ハドロン物理学

4次元時空やブラックホールなどに
強く惹かれて物理の道を志しました

 中学時代に科学雑誌を読んで4次元時空やブラックホールなどに強く惹かれて物理の道を志しました。「宇宙の始まり」や「宇宙の大きさ」などの話を知り衝撃を受けた感じがします。大学の卒業研究の際にハドロン物理学を専門とする先生に指導を受けた事をきっかけにハドロン物理学に進みました。ハドロン物理学は素粒子であるクォークとグルーオンから原子核などのスケールに広がる物理学で、興味深い性質を多く持つことで知られています。クォークとグルーオンに関する自然現象は量子色力学(QCD)によって記述されますが、この理論は複雑な性質を持っています。閉じ込めや対称性の自発的破れなどQCDの持つ性質も想像を越えた面白いものだと思います。

 現在は有限温度密度QCDと呼ばれる、高温や高密度下でのクォークやグルーオンの性質に関するテーマに興味を持っています。QCDはクォークとグルーオンと呼ばれる陽子や中性子内部に存在する素粒子に対する理論です。 通常は、クォークとグルーオンは陽子、中性子を形成し、物質の基礎となっています。ところが、水が温度や圧力によって異なる状態をとるように、QCDも温度、密度の変化に伴い状態を変えます。QCDの世界での高温、高密度というのは我々の日常の温度よりも遥かに高いのですが、そのような温度、密度は初期宇宙のような超高温状態や、中性子星中心部のような高密度状態の物理に関係してきます。そのようなQCDのつくる物質の性質を解明するために色々な試みが続けられていますが、私は「格子QCDシミュレーション」と呼ばれる方法を用いて研究を行なっています。

少しずつ理解の糸口が掴めてきているような、
そんなチャンスを感じるところが面白いと感じます

 現在研究している有限温度密度格子QCDは、通常の原子核を始めとして、初期宇宙や中性子星などに関係しています。このテーマは非常に難しい問題として知られていて、長年多くの研究者が努力を続けていますが、まだ満足のいく理解はえられていません。難問と言ってよいと思います。それが近年、実験や計算の進展によって発展してきています。少しずつ理解の糸口が掴めてきているような、そんなチャンスを感じるところが面白いと感じます。
人生に一つくらい, 自然の謎の解明に役立ち、科学の発展に貢献する創造的的な研究をしたいと思っています。ワインバーグの言葉に、"go for the messes -- that's where the action is"というのがあります。よくわかっていないテーマのほうが、創造的な仕事をする余地が多いという意味だと思いますが、ワインバーグのこの言葉のように、よくわかっていない混沌としたテーマに挑戦したいと思っています。また、人との議論が自分の考えや視野を広げてくれることがあるので、人の声に耳を澄ませるよう心がけています。

高密度QCDの性質は非常に不思議なので、
是非生きている間に理解したいと思います

 高密度QCDの性質は非常に不思議なので、是非生きている間に理解したいと思います。特に、「Silver Blaze」と呼ばれる問題があって、これを理解するのが現在の目標です。また、最近では強い相互作用系における量子もつれなどにも興味を持っています。量子もつれは量子力学の非常に奥深い現象で、アインシュタインの遺産のようなものだと思いますが、最近、場の理論、物性物理学、重力理論など色々なテーマで量子もつれが研究されています。強い相互作用は相関の強い量子系なので量子もつれを用いて何か新しい事が見えないか、という期待を持っています。また、自分の研究でなくても良いのですが、相対論発見時のような大きなパラダイムシフトを経験してみたいです。

重要な問題があり、それは難問ですが、これから発展する
チャンスを感じる、それが面白い点、やりがいです

 QCDは形式的には電磁気学に似ていますが、起こる現象は電磁気学と全く異なっています。観測される現象としては陽子や中性子、原子核などの現象がある事はわかっていますが、それがクォークやグルーオンからどのように説明できるのかがわかっていません。それは難しい問題ですが、計算や実験がこの10年程度の間に大きく進んできて、これまで難しかった計算が少しずつ可能になってきています。そして、今後QCDの性質が解明されれば、それが高温、高密度下での物質の理解につながっていくはずです。重要な問題があり、それはもちろん難問ですが、これから発展するチャンスを感じる、それが面白い点、やりがいだと思います。


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