HOME > 研究最前線 > 明日を創る若手研究者(オン フイージン)

大阪大学核物理研究センター

ONG Hooi Jin

オン フイージン

主な経歴

1996年12月

Penang Chung Ling High School
(マレーシア) 卒業

1998年3月

大阪外国語大学日本語教育センター 修了

2002年3月

東京大学理学部物理学科 卒業

2004年3月

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻
修士課程 修了

2004年4月

日本学術振興会 特別研究員(DC1) 採用

2007年3月

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻
博士課程 修了

2007年4月

理化学研究所仁科センター
リサーチアソシエイト 採用

2008年1月

大阪大学核物理研究センター
特任助教 採用

2012年10月

大阪大学核物理研究センター
特任講師 採用

実験核物理  軽い原子核におけるテンソル力効果の研究と
不安定核の構造の研究

目に見えない量子の世界がとても神秘的で
魅力的に感じました

小さい頃から科学について興味を持っていて、高校で物理学を学んだのをきっかけに物理学者になる決意をしました。特に目に見えない量子の世界がとても神秘的で、魅力的に感じました。大学生のころに加速器ビームを用いた量子の世界を探る原子核の研究(実験核物理)に出会い、夢実現と自己成長の可能性を感じこの世界に飛び込みました(2割くらいは大学院の指導教官にだまされたのかもしれませんが 笑)。原子核実験は学術面だけでなく、放射線測定技術やコンピュータを用いたデータ収集・解析等、様々な能力が要求されます。また、物性物理実験や素粒子物理実験と違って中規模実験であるため、ほとんどの場合、実験に使用する検出器や実験装置の準備から、共同実験グループの組織及び実験のとりまとめまで、すべてを実験責任者がやらないといけません。学術面でも実験運営面でも非常にチャレンジングですが、やりがいがありそうなので、この道を選びました。

現在の研究は大きく、(a) 軽い原子核におけるテンソル力効果の研究、および(b)軽い不安定核の構造研究、に分けられます。テンソル力は原子核の構成粒子である陽子と中性子(合わせて核子と呼びます)の間に働く力(核力)の一つです。テンソル力は原子核の束縛エネルギーに大きく寄与するなど、原子核構造において重要な役割をしていることが理論的に予想されていますが、4Heまでの原子核を除いてその効果を示す実験的な証拠がありませんでした。我々はテンソル力が高運動量成分をもたらすことに着目し、大阪大学核物理研究センター及びドイツ重イオン研究所にて16O原子核に対して1中性子移行 (p,d) 反応及び (p,dp) 、(p,dn) 反応(注:中性子移行に伴って陽子あるいは中性子が残留核から飛び出る反応)を行い、高運動量成分の検出によりテンソル力効果を探索・検証しています。同時に、不安定核ビームを用い、中性子過剰な原子核の荷電変化断面積の測定により陽子分布半径を決定し、中性子過剰な Be、B、C、O原子核の構造の系統的な変化を調べています。また、アクティブ標的システム(注:標的であると同時にトラッキングやエネルギー損失の測定をする検出器として働く装置のこと)やシリコン半導体検出器群の開発により不安定核の核分光を行っています。

時間と労力をかけて準備・実施した実験が成功したとき

やりがいを感じるのは時間と労力をかけて準備・実施した実験が成功した(予定していたデータが取れた)とき、あるいは自ら執筆して専門誌に投稿した論文が掲載された時です。逆に、難しさを感じるのは、実験に失敗して再実験するのにまた数ヶ月あるいは数年かかることと、予算等の関係で加速器が利用できる時間が年々減っていて実験する機会が少なくなっていることです。

常に心がけているのは、決めた目標を忘れず、多少時間がかかっても途中で諦めずに最後までやり遂げることと、どんな時でも常に前向きに自分を信じることです。それから、(当たり前のことですが)実験データ解析や論文を執筆する時、常に誠実な態度を取るようにしています。

フェムト秒レーザーと原子核

まだ具体的なアイデアはありませんが、原子核にフェムト(10-15)秒以下のパルス幅の高輝度レーザー(フェムト秒レーザー)を当ててその応答を観測してみたり、研究を展開できたらと考えています。

原子核の多様性と意外性が原子核研究のおもしろさ

ミクロの世界の原子核は陽子と中性子という2種類のフェルミ粒子から構成されている、極めて複雑な少数量子多体系です。原子核の世界を支配する核力は核内核子の空間座標、角運動量及びスピン自由度に依存し、原子核に多様な構造(原子核の多様性)を生み出しています。また、自由空間にいる2核子間に働く核力が知られているにも関わらず、非常に軽い原子核を除いて第一原理からの記述が不可能なため、安定核から不安定核までの構造や反応を全て予測することはできません(原子核の意外性)。私は原子核研究の面白さは原子核の多様性と意外性にあると考えています。そして、このような多様で複雑な原子核を実験プローブを工夫したり知恵を絞ることで、その応答を観測したり、構造を“観る”ことができるところが原子核研究のやりがいだと思います。


© 2013 日本の原子核物理学研究  > サイトポリシー・免責事項 | 本ウェブサイトは、核物理懇談会ホームページ委員会が運営しています