理化学研究所 仁科加速器研究センター
上野核分光研究室
高峰 愛子
Aiko Takamine
主な経歴
2002年3月
東京大学 教養学部基礎科学科 卒業
2007年3月
東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 博士課程修了
2007年4月
理化学研究所 基礎科学特別研究員
2010年4月
青山学院大学 理工学部 物理·数理学科 助教
2015年4月
理化学研究所 仁科加速器研究センター 研究員
原子分光法による不安定原子核の研究
世の中で他にない装置を作ったり
誰も知らない答えを探すことが楽しくなり
特に昔から科学者になりたいと思っていたわけではなく、高校生の頃は画家を目指したり、大学受験で心理学科を受験したこともありました。紆余曲折あり、結局理系の(数学から生物までごちゃまぜの)学科へ進んだうちに、自分の手で自然現象に触れその一つの側面を抽出することができる実験を面白く思うようになりました。分野もはじめから原子核物理を目指していたわけではなく、レーザーの美しさに心を奪われ量子エレクトロニクスへ進む道も考えましたが、これまた紆余曲折あり、原子のレーザー分光から原子核の性質を調べることができるというテーマに惹かれて、修士課程から原子核の世界に従事しました。大学院も周りの同級生がほとんど行くので、まあ理系は修士ぐらい行くのが普通なのかなとたいして主体性もなく進学したに近いのですが、いざ研究を始めてみると、世の中で他にない装置を作ったり、世の中で誰も知らない答えを探すことがとても楽しくなり、ひとまずやれるところまで続けてみようと思った結果、ここまで来たといったところです。
原子物理では、第0近似では原子核を無限大の質量を有する点電荷と見なし、電荷以外の特性を考えませんが、実際には同じ元素でも同位体によって質量、大きさ、原子核スピン、原子核モーメントの差があるために、原子スペクトルに微細な構造や差異が生まれます。これらを精密分光することで、基底状態にある原子核の大きさ、スピンや原子核モーメントを決定する研究を行っています。これは、基本的に原子核モデルに依らずそういった量を決定できる上に測定感度が高い手法です。すなわち、その特性が良く分かっていない不安定核に対して特に有効な手段のひとつであると考えています。
はじめて不安定核イオンをトラップできて
その雲が見えたときは心から感動しました
正直言って日々失敗の繰り返しですが、苦労して作った装置がうまく動いたときや、納得行くまで解析して測定値をばしっと決めたとき、長い間分からなかったことを解決できたときなどにやりがいを感じます。イオントラップ中にイオンをトラップできたかどうかはその蛍光をモニタしながら確認するのですが、はじめて不安定核イオンをトラップできて不安定核イオンの雲が見えたときは心から感動しました。
一方、短寿命不安定核を使う実験はビームタイム中にしか実験対象が手に入らないので、不安定核に対しては日常的に測定を重ねられないのはなかなか難しい点だと思います。逆に言うと、オンライン実験が成功した時の喜びと興奮は多くの人に是非知ってほしい類のものでもあります。
研究を進める中で心がけていることは、先入観を持たないようにすることと常に問いを持つようにすることです。わからないことはもちろん、わかっているつもりの事でも一から見直すことで新しく見えてくることもあります。思い通りのデータが得られないときにもその背景にあるはずの理由を考えるようにしています。どんなことでも基礎から考えることが大事であると、これまでの経験からも実感しています。
また、年上、年下、分野を問わず色々な方と議論を交わし、頂戴したご意見をよく吟味するようにしています。これは自分自身の意見を整理することにもつながりますし、少し違う分野の方とお話をすることで新たな視野が拓けることが多々あります。 他にも、原子核の実験研究は何人もの人員で構成するグループで行うものなので、コミュニケーションを絶やさないようにしたり、たとえ参加したての学生さんでも遠慮せずに気軽に疑問・意見をぶつけられるよう明るく自由な雰囲気を保つように気をつけています。
原子分光を通して奇妙な原子核の発見や
構造解明を進めていきたい
今後しばらくは原子分光を通して奇妙な原子核の発見や構造解明を進めていくつもりです。物理学は分光精度の向上とともに発展してきました。特にレーザー分光は現在物理量を最も精密に測定できる手法であり、これを究極にエキゾチックな原子核と組み合わせることで、核分光領域を新たな次元へと推し進めることを目指しています。
一方、量子エレクトロニクスの世界では数十年にわたりレーザーを含む電磁波を使って原子の状態を自由自在に巧みに操る研究が行われてきました。将来的には原子核に対してもそういった量子制御ができたらすごく楽しいだろうなあと考えています。ガンマ線による原子核の直接励起のみならず、可視光領域でも超高強度レーザーを使うことで原子核反応を起こしたりできるのではないかといろいろ夢想しています。
原子核を世界中の研究者が互いに切磋琢磨しながらも
一丸となって解明を目指す実にエキサイティングで
やりがいのある分野
原子核は構成粒子の数が多すぎず少なすぎない量子多体系であるところが特徴で、原子核を構成する陽子や中性子が数個変わっただけでその性質が大きく変わるところが特に面白いと思います。私達人間自身も含め、世の中の目に見える物質は全て原子からできていますが、その重さをほとんど担っているのは原子核です。すなわち物質の基本構成要素とも言える原子核ですが、その本当の姿はまだ完全には解明されていません。時には独立粒子のような顔を見せたり、時には集団としてふるまうような顔を見せたりと、原子核はある意味最も難しい物理学の対象とも言えます。そんな原子核を世界中の研究者が互いに切磋琢磨しながらも一丸となって解明を目指す、実にエキサイティングでやりがいのある分野であると感じています。