Goethe Universitat, Frankfurt (ドイツ)
佐藤 大輔
Daisuke Sato
主な経歴
2008年3月
京都大学理学部 卒業
2010年3月
京都大学大学院 理学研究科修士課程 修了
2013年3月
京都大学大学院 理学研究科博士後期課程 修了
2012年4月 - 2013年3月
日本学術振興会 特別研究員 DC2
2013年4月 - 2014年9月
理化学研究所 特別研究員
2013年7月 - 2014年8月
頭脳循環プログラムにより米国BNLに派遣
2014年10月 - 2016年2月
イタリアECT*ポスドク研究員
2016年3月 - 現在
Goethe Universitat, Frankfurt Humboldt fellow
有限温度の場の理論を用いた
クォーク・グルーオンプラズマ(QGP)の理論的研究
さまざまな分野との関わりに魅力を感じて
原子核物理をやろうと考えました
僕が物理に最初に魅力を感じたのは、高校1年生の物理の授業中に行った実験のときだったと思います。実験の内容について詳しくは覚えていませんが、校庭でボールを投げて、滞空時間と飛距離を測定して、ボールの初速度と射角を計算するといったようなものでした。単純な実験ではありますが、紙と鉛筆だけを使ってボールの実際の運動を記述・予測できるということに深く感動したのを覚えています。
原子核物理学を研究しようと思ったのは、学部4回生のための研究室見学のときです。そのときに原子核物理はさまざまな分野と境界を接していて、それらの分野の多彩な手法を使って研究を行っていることを知りました。たとえば、中性子星などの研究を通して宇宙物理と、またクォークおよびグルーオンの閉じ込め問題の研究などを通して素粒子物理とつながっています。クォークおよびグルーオンの多体系というのはボーズ・フェルミ多体系の1つですから、物性物理の手法が大いに使われています。また、最近では重イオン衝突実験の非平衡時間発展の解析に非平衡系の研究に使われる手法が持ち込まれました。このような様々な分野との関わりに魅力を感じて、原子核物理をやろうと考えました。
我々のまわりの物質は、陽子や中間子などのハドロンと呼ばれる粒子から構成されています。ハドロンはさらに、素粒子であるクォークおよびグルーオンから構成されていることがわかっています。通常の温度ではクォークおよびグルーオンは閉じ込められていて単独では現れないのですが、重イオン衝突実験を用いて2兆度程度の高温を実現すると、それらの粒子が単独で現れるクォーク・グルーオンプラズマ(QGP)相が実現されます。QGPは非常に多くの粒子から構成される多体系であるため、解析には場の理論が必要となります。それも媒質効果を考慮した理論である、有限温度の場の理論を用いる必要があります。QGP相においては、粒子間の相互作用が弱い弱結合領域でさえ、集団運動の出現等の非摂動的な振る舞いが見られ、その集団運動のエネルギースケールは個々の粒子のエネルギースケールよりはるかに低いと考えられています。したがって弱結合領域においてさえ、単純な摂動展開ではなく、このエネルギースケールの分離を考慮して改善された摂動展開を行わなければ信頼できる結果が得られません。僕は、主にこの手法を用いてQGP相の集団運動や光子の熱的生成、電流の誘起等の現象を研究しています。
また、重イオン衝突実験が行われているとはいえ、QGP相を精密に実験で調べる事は依然困難なことです。一方近年では、QGPのように実験が困難な系を、実験が容易な冷却原子系を用いてシミュレーションし、性質を調べるという方向性の研究が盛んに行われています。これに刺激を受けて、冷却原子系における、QGP相の集団運動に対応する励起の研究も行っています。
結果に物理的な解釈を与えられたときに初めて
研究をやりきったという感じがします
計算して何か非自明な結果を得たときにまずやりがいを感じますが、その段階ではまだ研究は半分しか終わっていません。その結果に物理的な解釈を与えられたときに初めて、研究をやりきったという感じがして、もう半分の分のやりがいを感じます。
それから、これは研究そのものとは直接関係ないのですが、僕は旅をするのが好きなので、出張などでいろいろな国に行けることを楽しんでいます。出張だけでなく、1〜2年程度海外に住むこともあります。僕の場合、学生のときにフランスに5ヶ月、ポスドクになってからはアメリカに1年、イタリアに1年半住んで研究を行いました。次はドイツに移って3年ほど住む予定です。旅が好きな人なら、こういう生活を楽しめるのではないかと思うので、ぜひ研究者を目指していただきたいと思います。
逆に難しさを感じるのは、考えても物理的な解釈がなかなか得られないときです。そういうときは簡単な場合を考えたり、他の分野の勉強をしたりして試行錯誤してみますが、いくら考えてもどうにもならないときもあります。そういうときは難しさと一緒に何かひっかかったような感覚を感じます。結果を論文にして発表して他の問題の研究に移った後も、ときどき思い出しては考えることがあります。
研究を進めていくと、計算結果が非常に複雑な表式になったり、複雑な振る舞いをしたりして物理的な解釈を与えにくいことがあります。そのような時には、まず極端に簡単な場合を考えたり色々試してみて、物理的な解釈が与えられないか考えてみるようにしています。やはり物理的な解釈を伝えられればプレゼンテーションをした時のインパクトが大きくなりますし、自分の中で物理を理解したという気持ち良さが生まれます。いつもそうできるわけではありませんが、解釈を得て自分なりの明快なストーリーを研究に与えられるまで論文にまとめるのは待つようにしています。
他分野の人にもおもしろいと思ってもらえる
普遍的な問題を考えだせたら
自分の専門分野の研究者だけでなく、他分野の人にもおもしろいと思ってもらえるような普遍的な問題を考えだせたらいいなと思っています。つまり、いわゆる「おもしろい物理を作る」ことをやりたいです。
素粒子物理や物性物理、宇宙物理などの
他分野と関係が深いことにおもしろさを感じています
素粒子物理や物性物理、宇宙物理などの他分野と関係が深いことにおもしろさを感じています。特に僕は、物性物理的な観点からのQGPの研究に興味があります。というのは、QGPの研究の中には、QGPだけに適用できる手法・理論だけではなく、一般の多体系にも適用できるような手法や理論の発展に寄与するものがあります。このような研究に特に魅力を感じています。