HOME > 研究最前線 > 明日を創る若手研究者(時安 敦史)

東北大学電子光理学センター

時安 敦史

Atsushi Tokiyasu

主な経歴

2008年4月

日本学術振興会特別研究員 (DC1)

2013年3月

京都大学大学院理学研究科 博士後期過程修了

2013年4月

大阪大学核物理研究センター 教務補佐員

2014年4月

大阪大学核物理研究センター 特任研究員

2014年6月

大阪大学核物理研究センター 特任助教(常勤)

2015年4月

東北大学電子光理学研究センター 助教

光生成反応によるエキゾチックハドロンの探索

「これから始まろうとしている最先端の研究分野に
飛び込んで自分の力を試しみたい!」と思った

小さい頃に手に入れたおもちゃの顕微鏡が私のスタート地点です。100倍程度の低倍率だったのですが、田の水や髪の毛やいろんなものをスライドガラスの上にのせ、夢中になって観察したことを覚えています。肉眼で見えなくても、複雑な世界が広がっていることに素直に感動しました。

これをきっかけに科学に興味を持ち、また高校時代に恩師に恵まれたこともあり、あまり悩むことなく研究者の道を志すようになりました。とにかく科学全般が好きだったので、高校、大学を通して生物、数学、物理、化学、地学と分野を選ばず自分の興味のある事を勉強しておりました。

原子核を研究テーマに選んだのは、大学院に入学するときです。私が大学院に進学したのはちょうどJ-PARC, RIBFという二つの大型加速器施設の建設時期でした。当時は原子核についての知識が乏しかったのですが、新しい時代が始まろうとしているという雰囲気は肌で感じ取ることが出来ました。「これから始まろうとしている最先端の研究分野に飛び込んで、自分の力を試しみたい!」と思ったのがこの分野に進むきっかけです。特に建設中であったJ-PARCの見学会で、線形加速器を目の前で見て、言葉で表せない感動を覚えた記憶があります。研究をしていてうまくいかないときに、私を励ましてくれるのは今でもあのときの感動であると思います。

現在は兵庫県にある電子加速器施設SPring-8において、ハドロンの光生成の実験的研究を行っております。ハドロンはバリオン(陽子、中性子等)とメソン(π中間子、K中間子等)の総称であり、クォークを最小単位として構成されていると考えられています。すなわち、バリオンは3つのクォーク、メソンはクォークと反クォークの対からなると説明されます。しかしこのような単純な描像では、現実世界のハドロンを記述するのには限界があることが最近明らかになってきました。ハドロンの内部構造はどうなっているのか、それを探る一つの手段が、エキゾチックハドロンを探索することです。エキゾチックハドロンは4個以上のクォークから構成されるハドロンを指し、一例として5つのクォークからなるペンタクォークがあります。ペンタクォークは現在私が参加しているLEPS実験において初めてその存在報告がなされました。高エネルギーのγ線を重水素標的に照射し、得られた分光スペクトル中に特徴的なピーク構造が観測されたのです。ペンタクォークの発見は世界的な反響を呼び、多くの追実験が行われました。その結果、ペンタクォークの信号が確かに確認できたという報告がある一方、ペンタクォークの存在に否定的な実験結果も出てきました。ペンタクォークの存否については現在も議論が続いております。そこで、我々はLEPS実験の結果を高精度で検証するため、新しい実験(LEPS2実験)を計画中です。

LEPS2実験ではLEPS実験の約10倍の強度のビームが利用可能です。さらに米国の研究所より移管された大立体角検出器群を使用します。ペンタクォークの存否について最終的な結論を出すことを第一の目標としているほか、これまで測定が難しかったハドロンの生成反応が検出可能となり、それによって、ハドロン物理学の新分野を切り拓くことが期待されています。現在はLEPS2実験の早期開始に向けて、検出器の開発準備で忙しい日々を送っております。

問題を発見して、皆で頭を悩ませて解決策を
見出すのが研究の醍醐味

研究は一人でできることではありません。実験の場合は多くの共同研究者と協力して実験を立ち上げて、データを取得し、データ解析でも定期的に共同研究者が集まって入念な議論を重ねます。各段階で論理的矛盾がないか検証に検証を重ねて、初めて一つの結果を出すことができます。自然と最終的な結果を得るには長い時間がかかります。実験立ち上げから論文出版まで数年かかることも稀ではありません。多くの人の協力をもとに得られた実験結果を、学会や発表論文で報告できた時に、達成感を得ることができます。また、その過程ではさまざまなドラマが生まれます。いろいろなアイデアが生まれては消え、絶対に解決できないと思っていた困難が一人の何気ない一言で解決し、一気に物事が進んだりします。問題を発見して、皆で頭を悩ませて解決策を見出すのが研究の醍醐味だと思います。

原子核実験の難しさは、一つの実験結果で全てが決められるとは限らないということです。多くの実験結果が組み合わさって、一つの描像が出来上がります。私がLEPS2実験で探索しようとしているエキゾチックハドロンについても同様です。一つの実験結果でその存在が認められることは滅多になく、反応を変えたり、検出領域を変えたりして追実験を繰り返さなければなりません。それ故、自分が今行っている研究が全体の中でどのような位置づけにあるかを常に把握しておくことが重要です。

私が研究を進める上で常に心がけていることは大局的な視点を持つことです。 自分が今行っている研究が、物理学、あるいは科学全体の中でどのような位置づけにあるかを常に考えております。最先端の研究は専門化が進んでいるので、自分の研究に没頭しているとどうしても視野が狭くなります。視野をリセットするために、定期的に原子核分野外の研究会に参加したり、他分野の知人と議論をするようにしています。他分野で普通に使われているアイデアが自分の研究に使えることもあるので、とても良い刺激になります。

また、一般の方から受ける質問が意外に鋭く本質をついていることがあります。例えば、研究室の一般公開の際にポスターの絵を見た小学生から「陽子の形はボール?」と聞かれて返答に困ったことがあります。最先端の研究をわかりやすく説明することは、自身の勉強にもなるので、一般の方と触れ合う機会をなるべく多く作るように心がけています。

大局的な視点を持つことは実験を行う上でも役に立ちます。原子核実験は、さまざまな種類の検出器を組み合わせてデータを取得します。それぞれの検出器は最先端のものを用いており構造が複雑なため、その運用はプロフェッショナルが担当することが多いです。一つの検出器を極めるのは素晴らしいことだと思いますが、私自身は実験全体を見渡して滞っている所に手を差し伸べるサッカーでいう「リベロ」のような存在でありたいと考えています。このような姿勢は、結果的に幅広い知識を得ることが出来るため、自分で実験を考える際の原動力になると考えております。

原子核物理学の常識を打ち破る結果を出すのが
ひそかな夢です

目標は二つ持っています。一つは今の自分の研究の延長で、現在参加しているLEPS2実験の立ち上げに全力を注ぎたいと考えております。LEPS2実験が動き出せば、エキゾチックハドロンの存否や、ハドロンの内部構造など今までずっと謎であった事が明らかになります。また同時期にJ-PARCのハドロン実験ホールからも次々に新しい実験結果が出てくると予想され、日本が原子核物理学研究で世界をリードする存在になると思います。自分たちが原子核実験分野のフロンティアを切り拓いていくのだという自負を持って、興味ある実験結果を世界に発信していきたいと考えています。 またLEPS2実験は、データ取得の段階でイベントの選択をなるべく行わず、起こった反応は全て捕らえようというコンセプトで進められています。すなわち一つのデータセットで、アイデア次第でいろんな物理にアクセスすることが出来ます。誰も思いつかなかった解析モードを見つけ出して、原子核物理学の常識を打ち破る結果を出すのがひそかな夢です。

もう一つの目標は、原子核分野にこだわらず新しい研究分野を立ち上げることです。 アイデアだけはあり、いつも頭の片隅で考えているのですが、荒削りすぎるのでまだ誰にも話しておりません。今後10年間でさまざまな経験を積みながら、何とか実現可能な形にまで持って行きたいと考えております。

ただ新しいことを始めるに当たって、原子核の研究で得た知識、経験は必ず役に立つと確信しております。最終的にノーベル賞を狙えるような物理結果を発見したいと考えております。

エネルギースケールを変えていったとき
物質はさまざまな姿を我々に見せてくれます

原子核物理学の目的は我々の身の回りの物質が何から出来ているのかを理解することです。そして、そのおもしろさは、一つの対象でも観察するエネルギースケールを変えると全く異なった姿が見えてくるということにあると思います。ここでエネルギースケールを変えるとは、原子核を覗き込むレンズの倍率を変えることに対応します。例えば、身の回りの物質を10-10(0.0000000001)mの大きさまで分解すると、原子から成り立っていることがわかります。原子の中を覗くと、原子核の周りを電子の雲が覆っている様子が観察され、原子核の中は陽子、中性子から成り立っていることがわかります。更に、陽子の中を覗いてみると、クォーク3つで構成されているように見え、より高いエネルギーで見てみるとクォーク、反クォーク、それらを結びつけるグルーオンが混ざり合っている姿が見えてきます。

このようにエネルギースケールを変えていったとき、物質はさまざまな姿を我々に見せてくれます。それらを一本で結びつけることの出来る統一描像が完成したとき、我々は身の回りの物質が何から出来ているのかを本当に理解したと言えると思います。

また物質を究極の高温状態、高密度状態に置いたときに、その基本的な性質(寿命や質量など)が変化するということも、最新の研究からわかってきています。それはすなわち、宇宙が出来たときの姿を知ることにもつながっていきます。


© 2013 日本の原子核物理学研究  > サイトポリシー・免責事項 | 本ウェブサイトは、核物理懇談会ホームページ委員会が運営しています