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日本原子力研究開発機構 原子力基礎工学研究センター  核工学·炉工学ディビジョン 核データ研究グループ

湊 太志

Futoshi Minato

主な経歴

2004年3月

東北大学理学部物理科 卒業

2009年3月

東北大学理学研究科物理学専攻 修了

2009年4月 - 2012年3月

日本原子力研究開発機構 博士研究員

2012年4月 - 現在

日本原子力研究開発機構 研究員

乱雑位相近似法によるガモフテラー遷移およびベータ崩壊の理論研究
核反応モデルによる核データ評価研究

ベータ崩壊やベータ遅発中性子は「なぜ宇宙にさまざまな
元素が存在しているのか?」をひも解くカギ

中学生の頃から研究者になりたいという憧れがありました。しかし大学生になると、遊びやサークル活動にかまけて完全に勉学はおろそかになり、将来どういう職業に就きたいのかも考えていませんでした。そんな中、大学4年のときに原子核理学研究施設(現・東北大学電子光理学研究センター)の実験グループに配属されたことが、原子核の世界に足を踏み入れる最初の一歩になりました。その後、滝川昇先生の原子核の講義を受けてさらに原子核に興味をもったことをきっかけに、理論物理の道に進みました。さらに、(文系の)博士課程に進んでいた先輩に触発され、「研究者になりたい」という気持ちを思い出して、この道を選ぶことに決めました。ついでに言えば「外国に研究しに行くってかっこいい!」というあこがれみたいなものも、この道を選んだ一因です。

私は主に原子核励起や崩壊現象について調べています。特に、ガモフテラー遷移やベータ崩壊、ベータ遅発中性子を理論的に調べています。原子核は複数の陽子と中性子で構成された複合体であるため、外部からエネルギーが加わると回転励起したり振動励起したり複雑な振る舞いをします。さらに、陽子や中性子には、古典力学にはない「スピン」や「アイソスピン」といった自由度があるため、その中での励起も存在します。典型的な例の一つがガモフテラー遷移です。ガモフテラー遷移は、原子核中の陽子または中性子のスピンに作用するとともに、アイソスピンにも作用して中性子を陽子に、陽子を中性子に変化させます。この遷移によって、最初の原子核は、原子番号Zが1つ異なる別の原子核(Z±1)の励起状態(または基底状態)に遷移します。そして、多くの不安定原子核はガモフテラー遷移によってベータ崩壊を起こしていることが知られています。また、原子核によっては、ベータ崩壊に続いてさらに中性子を放出することもあります。これがベータ遅発中性子の現象です。ガモフテラー遷移が原子核中でどのように起きているか理論的に詳しく調べることで、ベータ崩壊やベータ遅発中性子放出のメカニズムをより深く理解することができます。

ベータ崩壊やベータ遅発中性子放出のメカニズムを解明することは、「なぜ宇宙にさまざまな元素が存在しているのか?」と言う物理学の根源的な疑問を解決するカギになっています。さらに、「核のゴミ」が放出する熱量の予測や、原子炉の廃炉処理にも必要な情報です。最近では、ベータ崩壊で放出される反ニュートリノを検出して原子炉で核兵器の原料が製造されていないかをモニタリングすることや、ベータ遅発中性子を用いた非破壊検査の試みもあります。そのような技術の確立に貢献できるよう、研究を行っています。

自分がおもしろいと思ってすすめた研究の価値を
他の人が理解してくれたときにやりがいを感じます

自分がおもしろいと思ってすすめた研究の価値を、他の人が理解してくれたときにやりがいを感じとてもうれしく思います。あとは論文がアクセプトされたときです。「一仕事終えたーっ!」という気持ちになります。難しさを感じるのは、理論結果が実験値の傾向と合わない時です。物理的に妥当であるならよいのですが、理論や自分の計算コードに問題がある場合がよくあるのです。そこをしらみつぶしに探しあてるのは苦難ですね。特に核データ評価でそうなったときは大変です。あっちが良ければこっちが悪くなる、といった感じになり、頭がボカンしそうになります。

研究で分からないことがあったら、時にはあきらめることも大事だと思っています。すぐに答えが必要なときもありますが、難しい内容や最先端の研究を理解することは1日では難しく、一方向から攻めてもやはり無理です。そのようなときには勉強し直したり見方を改めたりしてからやり直すようにしています。しかし今だに、煮詰まってしまったところをガンガン突き進もうとして時間を無駄にし、徒労に終わってしまうことがあります。また、研究内容について議論することは特に重要だと思います。人を本に例えるなら、答えを見つけるのに、一冊しかなければ見つからないことも二冊、三冊と増えたら見つかる可能性が高くなります。そのためには、問題を明確にし、他人と情報を共有できるコミュニケーション能力を磨く必要があると思います。

初期の科学者のように、身近な自然に対する疑問
から発展した研究もしてみたい

高密度QCD(量子色力学)の性質は非常に不思議なので、是非生きているあいだに理解したいと思います。特に、「Silver Blaze」と呼ばれる問題があって、これを理解するのが現在の目標です。また、最近では強い相互作用系における量子もつれなどにも興味を持っています。量子もつれというのは量子力学の非常に奥深い現象で、アインシュタインの遺産のようなものだと思いますが、最近では場の理論、物性物理学、重力理論など色々なテーマで研究されています。強い相互作用は相関の強い量子系なので量子もつれを用いて何か新しい事が見えないか、という期待を持っています。また、自分の研究でなくても良いので、相対論発見時のような大きなパラダイムシフトを経験してみたいです。

思考を重ねて新しい視点を模索することができる
おもしろさ

原子核は多彩な性質を持っており、それらを統一的に理解することは現在も難しいままです。しかし、だからこそ、思考を重ねて新しい視点を模索することができるおもしろさがあります。また、多彩な性質があるからこそ、勉強し続けないといけない点もあり、理解が一歩進んだ時に感じる新鮮な感動に恵まれているように思います。原子核を知るには、原子核の知識だけではなく、コンピュータや電磁気学、機械工学、統計学、熱力学など幅広い知識が必要です。日本にはそれらに精通した数多くの実験グループや理論グループが存在しています。他の研究者との議論を通して、普段触れることができない知識を得ることができることは、原子核物理のおもしろさだと思います。

基礎研究とみなされがちな原子核研究ですが、その応用先は思いのほか豊富です。最近行っているRI製造研究は、その一例だと思います。工学分野や化学分野などにも共通点を多く持っています。それもまた、一つの魅力だと思います。


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