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東京大学大学院理学系研究科
附属原子核科学研究センター

関畑 大貴

Daiki Sekihata

主な経歴

2013年3月

広島大学理学部物理科学科 卒業

2015年3月

広島大学大学院理学研究科物理科学専攻 
修士課程 修了

2019年3月

広島大学大学院理学研究科物理科学専攻 博士課程修了

2016年4月ー2018年3月

日本学術振興会 特別研究員DC2

2019年4月ー2021年3月

東大CNS 特任研究員

2021年度

日本物理学会実験核物理領域若手奨励賞・原子核談話会新人賞

2021年4月ー現在

東大CNS 特任助教

高エネルギー原子核衝突で創成するクォーク・グルーオン・
プラズマ相の性質解明

子どもの頃は、物の成り立ち、宇宙などの自然科学に興味をもち、図鑑や簡単に噛み砕かれた本を読んでいたことを覚えています。幼少期からそれらに興味をもっていたので、素粒子・原子核・宇宙の道へ進むことに迷いはありませんでした。最終的に研究者になろうと決めたのは、振り返ってみれば、博士課程の時に責任ある立場で大型国際共同実験を先導した経験だと思います。難しいことに挑戦し、責任をもって成し遂げることの重さを感じました。

私は世界最高エネルギー原子核衝突で創成するクォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)相の研究をしています。究極のゴールは、宇宙創成のシナリオを完成させることです。私たちの周りの物質はハドロンと呼ばれ、複数のクォークから構成されています。通常の状態では、クォークは単体で存在できず、ハドロンとして存在しています。グルーオンはそのクォークたちを結びつけるのりの役割を果たし、強い相互作用によって結合しています。クォークとグルーオンをまとめてパートンと呼びます。QGP相とは超高温・超高密度でクォークとグルーオンがハドロン中から解放された物質状態です。この物質状態はビッグバン直後10^-6~10^{-5}秒後の私たちの宇宙の姿だと考えられており、それを研究することは極初期宇宙の物質状態解明に繋がります。現在、地球上でQGP相を創成する方法は唯一、高エネルギー原子核衝突です。測定量は軽ハドロン、重ハドロン、電磁放射(光子・レプトン対)など多種多様で、1つの実験に世界40ヶ国から約2000人の研究者が参加しています。 その中で、私は電磁放射を利用して衝突の時空発展を遡っています。反応初期から順に、パートン硬散乱→前平衡状態→QGP相→ハドロン気体と進んでいき、系の膨張により温度も冷えていきます。これまでのところ、ハドロン気体からの電磁放射を捕まえることに成功しています。時空発展を逆行するほど信号数が減少し、測定が難しくなります。そのため、たくさんデータ収集できるように検出器を増強して2022年7月5日から実験を再開しました。現在は、2022-2028年に取得する新たなデータを用いてQGP相の初期高温状態まで遡ろうと研究を進めています。2035年からは前平衡状態まで遡る研究を開始する計画です。

博士学生時代の私の研究は、LHC-ALICE実験で高性能光子検出器(PHOton Spectrometer)を用いた単光子測定でした。読み出しシステムを刷新し、検出器インストールも行い、自分で現場を指揮して研究を遂行しました。大型国際共同実験で検出器運用から物理解析までの一貫した研究はとても良い経験で、今の私を作っています。もちろん、失敗の方が圧倒的に多かったです。 電磁放射の信号は、既知ハドロン崩壊成分からの超過成分として現れます。光子やレプトン対に崩壊するハドロンを正確に測定することが第一歩となるので、結果を得るためには道のりが長く、根気のいる研究となります。しかし、その困難さそのものがやりがいで、立ち向かう原動力です。 研究する上で心がけていることは主体性です。実験はグループで行いますが、それぞれのメンバーが主体性をもって臨むことが大切です。研究は失敗の連続ですが、誰かが問題を解決してくれることはありません。「自分が意思決定し、行動する」という目的意識が実験を推進するために必要だと考えています。

QGP相の物理には多角的アプローチが必要だと考えています。異なる測定量だけでなく、異なる加速器で創成する異なる様相のQGP研究にも着手したいです。現在、私はLHC加速器ALICE実験で高温QGP相の研究を行っています。今後はドイツ、ロシア、日本などで計画中の高密度QGP相の研究にも挑戦してみたいです。高密度QGP相の研究は、中性子星内部の物質状態と関係が深いです。 私はQGP相の性質そのものに着目して研究していますが、他方でハドロン物理学の観点からはQGP相を高温または高密度でカイラル対称性が回復した環境として見ることもできます。陽子を例にすると、2つのuクォークと1つのdクォークの質量を足しても、陽子質量の1%程度です。クォークが陽子として合体することで残りの99%の質量を獲得します。これはカイラル対称性の自発的破れによるものだと考えられています。実験的にハドロン質量の起源を明らかにしたいです。 私はまだまだ未熟で、理解が追い付いていない部分がたくさんありますが、広い視野をもって研究したいと考えています。他分野との連携も考えなければなりません。今やらなければならないことに尽力することで、将来進むべき道が拓けると信じています。

高エネルギー原子核物理学の面白さは、強く相互作用する量子多体系が発現する多様な層構造だと考えています。私の研究分野は、素過程に着目する素粒子物理学と陽子・中性子を基本単位とする原子核物理学を結び付ける重要な架け橋です。その背景には量子色力学という1つの基礎理論があります。複雑な多体系であるがゆえに、研究結果を得ても曖昧さが残ることも多々あります。実験・理論が協力して多様な層構造に潜む一般的性質を解き明かそうとする挑戦、その困難さに面白さを感じます。


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