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理化学研究所 加速器基盤研究部

西 隆博

Takahiro Nishi

主な経歴

2010年3月

東京大学理学部物理学科学科 卒業

2012年3月

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 修士課程修了

2015年3月

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 単位取得退学

2017年1月

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 博士(理学)取得

2012年4月ー2015年3月

日本学術振興会 特別研究員(DC1)

2015年4月ー2016年3月

理化学研究所 基礎科学特別研究員

2016年4月ー2021年6月

理化学研究所 リサーチアソシエイト / 特別研究員 etc...

2021年6月ー現在

理化学研究所 研究員

加速器施設における機械学習を用いた高度なビームダイナミクスの制御

加速器とは加速空洞電圧や位相に始まり、キッカー磁石、四重極磁石など多種多様な機器を最適化することで初めてビームが得られるシステムである。その中でもビームロスを制御するのは非常に重要であり、例えばビームロスがある場所で 0.5 % か 1% かではその場所の熱負荷によるビーム量の制限が 2 倍異なることとなる。 このようなビームロスを考えるときにはビーム集団のいわゆる裾と呼ばれる非線形効果を強く受けた部分が大きく関与しており、非常に多くのパラメータに対する実データの複雑な応答を基に最適化していく必要がある。そこで本研究では、加速器施設、特に理化学研究所 RIBF において機械学習を用いた加速器パラメータの最適化を目指している。

私自身は数年前まで加速器を用いた原子核実験を行っていた。その頃は自分の研究のための実験が行えるのは数年に一度であり、施設全体の実験について広く見渡す機会もあまりなかった。一方加速器分野に転向してからは、自分の改良していった装置によってRIBFで行われるほぼ全ての実験の効率や成果に影響が与えられるという点が恐ろしくもやりがいのある点だと感じている。未だRIBF全体に影響が出るような開発は行えていないが、遠くない将来に私によってこれだけ施設の能力が上がったのだ、ということを胸を張って言えるような成果を実現させたいと考えている。

現在 RIBF で尤も重要なのはビーム強度であり、より高強度のビーム供給を実現するために各種様々な努力がなされている。 しかし私自身がかつて行っていた実験のように、ビームの品質 (運動量広がり / エミッタンス / 分布の裾の形状など) を向上させることで初めて成し得る実験もあるのではないかと期待している。  もちろんビーム品質が向上すれば自ずと供給できるビーム量も増えていくと期待されるが、いずれはビームの品質そのものをよりコントロール下に置くことでマニアックな実験にも対応していけるシステムを作っていきたいと密かに(?)考えている。

原子核研究の面白さはこの分野に対してそれぞれが別の切り口を持っていることだと感じている。主に加速器という巨大な道具を使って、原子核という極限的な対象を研究する。 このときに原子核を極限環境の場としQCD 相図の中の物性的な性質を研究する人もいれば、我々の世界の基本因子としてその性質を深く探る人、量子多体型としてその複雑なダイナミクスや対称性を研究する人、宇宙で過去、そして現在起きていることを再現するための実験室とみなす人、量子論の基本的性質の検証を行う人もいる。 しかしいずれもその切り口を元に壮大なストーリーがあり、それらを内包する原子核という分野の奥深さを物語っていると思う。もしもその物語に今はない新しいビームが必要となった時、是非一緒にその実現を目指す議論をさせてもらえれば光栄である。


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