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大阪工業大学

門内 晶彦

Akihiko Monnai

主な経歴

2008年3月

東京大学 理学部物理学科 卒業

2010年3月

東京大学大学院 理学系研究科物理学専攻 修士課程修了

2013年3月

東京大学大学院 理学系研究科物理学専攻 博士課程修了

2010年4月-2013年3月

日本学術振興会特別研究員(DC1)

2013年4月-2016年3月

理化学研究所仁科加速器研究センター 基礎科学特別研究員

2016年4月-2018年3月

フランス国立科学研究センター理論物理学研究所 日本学術振興会海外特別研究員

2018年4月-2020年3月

高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所 博士研究員

2020年4月-2022年3月

日本女子大学理学部数物科学科 講師

2022年4月-現在

大阪工業大学工学部一般教育科 特任講師

原子核衝突で生成される高温高密度クォーク物質の研究

身の回りの物質を形作っている原子は原子核と電子からなり、原子核は陽子と中性子から、陽子や中性子はクォークやグルーオンとよばれる素粒子からなっています。通常、クォークやグルーオンは量子色力学(QCD)によって記述される強い相互作用によってハドロン内部に閉じ込められています。一方で非常に高温高密度の環境下では、閉じ込めから解放されてクォークグルーオンプラズマ(QGP)とよばれる素粒子の多体系になると考えられています。実際に、米国ブルックヘブン国立研究所の相対論的重イオン衝突型加速器や、欧州原子核研究機構の大型ハドロン衝突型加速器において原子核同士を光速に近い速さで衝突させることで2000年代より実験的にQGPが作られるようになりました。このQGPを理論的に解析することによって、強い相互作用をする物質の性質を知ることを目標としています。

私は幼少期から物理、化学、数学といったものに漠然とした興味を持っており、高校から大学に進む頃には特に物理をやりたいと思っていました。この世界の仕組みとそこから現れる現象について知りたいという好奇心が強かったように思います。原子核理論という専門に進む際には、素粒子物理と物性物理の両方の性格を持っているところが興味深いと感じました。この二つは物理を細かく見るか、全体から見るか、という観点の違いからしばしば相反するように取り扱われることがありますが、実は深く関わりがあります。例えば研究では、素粒子の集団的ダイナミクスを理解するために、ミクロな性質に起因する状態方程式や輸送係数を基にマクロな記述である相対論的流体力学モデルを考えています。

私は新しいものを見つけて体系化することにやりがいを感じます。研究を進めていくと多くの場合、技術的、理論的な壁がいくつもあらわれます。それらを乗り越えていく中で、新しい手法や考え方を学んだり、または新たに編み出したりすることが成長につながると感じています。思いついたときに優れたアイデアだと思っても、既に数十年前に先人たちによって論文になっていたり、あるいは自明な結果が導かれたりすることもよくあります。それでも何かを生み出していく過程や、これまでに分からなかった現象が理解できること、新たな視点が得られることは、研究の魅力の一つではないでしょうか。自分が生み出した最善の結果を、自ら一番厳しく評価することを繰り返し、その中で残ったものを積み重ねていけば研究成果につながると思います。

また共同研究や会議を通じて、必然的に国内外における優秀な方々と接する機会が多く得られるので、それも研究生活における魅力の一つかなと思います。私自身は特に、ポスドクとして国外ではアメリカのニューヨークにある理研BNL研究センター(在ブルックヘブン国立研究所)に約3年、フランスのパリ近郊にあるフランス国立科学研究センター/サクレー研究所の理論物理学研究所に2年滞在していました。研究の面で刺激になることはもちろん、生活の面においても異なる文化に触れることは、自分自身が普段どんな考え方をしているかを知る機会となります。一つの概念にとらわれず柔軟なものの見方をするという研究者にとって重要な姿勢にも通じる話ですので、そうした意味でも貴重な経験が得られたと思います。

どの分野でも言えることだと思いますが、一見矛盾しているように見えたり、解決が困難であると思われている問題があり、いわゆる「手堅い研究」を進めるのと並行してこういった大きな課題にチャレンジしていきたいと考えています。具体的には、現時点では量子色力学の有限密度領域における相構造であったり、原子核衝突における直接光子生成の根本的理解などがこれに含まれると考えています。

また業界において常識とされている考え方であっても、特に原子核衝突の現象論においては歴史的な経緯を色濃く含んでいたりと必ずしも自明ではない場合もあります。それらにとらわれず新たに課題を発見し、解決策を提示していくことにも携わりたいと考えています。理論と実験の関わりも考慮し、分野が10年先、20年先、30年先にどうなっているかも見据えた上で、研究活動をしていきたいと思います。

原子核物理はそれ自体が独立した研究分野として面白いことに加えて、素粒子物理と物性物理の融合分野としての性質を持っていることが興味深いところの一つだと思います。また一言で原子核といっても原子核構造、超重元素合成、不安定核、ハイパー核、天体核物理、ハドロン物理、格子QCD、クォークグルーオンプラズマなどここに挙げきれないほど多種多様な物理が含まれており、会議や研究会、セミナーにおいてそういったテーマの話を聞くことで刺激を得ることができます。

素粒子・原子核・宇宙分野では理論と実験が分業であることが多いですが、理論と実験の間の連携が緊密であることも、魅力的な点だと思います。クォークグルーオンプラズマ分野の研究では大型加速器を用いた原子核衝突実験が行われており、最新のデータに基づいた理論研究を行うことを通じて、超高温高密度状態の定量的な議論が可能となっています。理論予測が新しい実験データを説明できればモデルの妥当性が検証でき、また想定されていなかった現象が見つかれば新たなトピックの萌芽となります。研究成果だけでなく、コミュニティとしての人的交流もあり、活発な分野だと思います。


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