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The Australian National University

田中 泰貴

Taiki Tanaka

主な経歴

2010年3月

鹿児島県立鹿児島南高校 卒業

2014年3月

九州大学理学部物理学科 卒業

2016年3月

九州大学大学院理学府物理学専攻
修士課程修了

2016年4月- 2019年3月

理化学研究所 大学院生リサーチ・アソシエイト

2019年3月

九州大学大学院理学府物理学専攻 博士課程修了

2019年4月

The Australian National University
Postdoctoral Fellow

ニホニウムのような(超)重元素合成での原子核反応機構の研究

小さい頃の私は、いろんな装置の仕組みが知りたくて、家で壊れかけた電化製品(ラジオやインターホン、インスタントカメラ等)を分解して遊んでいたのを覚えています。当時のインスタントカメラのフラッシュは、単3乾電池1本で動くのですが、なんであんなにすごい光が出せるのだろう?という不思議も、帯電しているコンデンサーに指で触れて感電したときに、その仕組みがよくわかりました。小学4年生の時にアマチュア無線の免許をとって、アンテナやいろんな電子工作をし、それが実験物理への第一歩だったのだと思います。同じく、小学4年生から柔道を始め、中学、高校、そして大学まで、計13年間を毎日柔道に費やしていました。そのおかげもあってあまりお勉強もできず、学部の後半では就職をしようと就職活動をしていました。そんな中、大学3年生の終わり頃にあった研究室紹介にて、私の大学の先輩であり、九大柔道部の先輩でもあった森田浩介先生("世界を牽引する研究者"のページに紹介があります)が新たに九大実験核物理研究室の教授として着任されるという話がありました。そこで森田先生と直接お話をしたのが、実験核物理に導かれた入口でした。

私は、ニホニウムのような(超)重元素合成での原子核反応機構の研究をしています。ニホニウムの発見と命名のニュースは原子核業界のみならず、一般社会に対しても大きなインパクトを与えました。このニホニウム1原子を合成するのには、世界最大クラスのビーム強度を照射できる理化学研究所(理研)の加速器を用いても、200日程のビーム連続照射が必要です。新元素の発見の認定と命名権の獲得には、合計3原子の合成、約600日に相当する時間のビーム照射をし、約10年の研究期間がかかりました。同じ時期に、ロシアのフレロフ研究所は、48Ca(原子番号Z = 20)ビームを244Pu (Z = 94)や249Cf (Z = 98)などの標的に照射して、114番(20 + 94 = 114)から118番(20 + 98 = 118)までの元素を合成しました。現在、世界中の研究グループが119番や120番元素の合成を試みていますが、現在のところ、その合成の報告はありません。その大きな理由の一つは、Es (Z = 99)より重い標的はその実験に使用できる量を準備できず、代わりにビーム種を48Ca (Z = 20)から重い50Ti (Z = 22)や 51V (Z = 23)、 54Cr (Z = 24)などに変更する必要があり、その場合の核反応機構がどのように変化するのか不明であるという点です。側から見ると、ただ原子核同士をぶつけるだけで大した差はないように見えるのですが、(例の一つとして)衝突させる際のエネルギー(ビーム粒子の速度に比例)がわずか1-2%ずれただけで、生成断面積(合成確率に相当)が1/3程度に減少する場合もあります。この3倍の差は、200日に1原子を作るような実験では大きく、合成実験の成否を分けると言っても過言ではありません。この原子核反応では様々な現象が複雑に絡み合っており、例えば、量子トンネル効果を用いて原子核同士を接触させる際には、ラグビーボール型に変形した標的による影響や原子核の励起状態などが関与します。その後にも接触した原子核同士が一つの複合核を創る際には、二核が平衡しないといけないのですが、その平衡過程において原子核同士の核子のやりとりの分布は大きな揺動を持っています。私の研究は、こういった現象の理解を、新たに開発した実験手法を用いて明らかにしていき、その上で、最適な核反応(最短ルートで新元素や新同位体を合成する方法)を提案することを目標の一つにしています。

研究なので、当然ですが、世界で誰も行っていないことに挑戦して、結果(論文等)を残さなければなりません。九大での学部時代に原子核理論の八尋教授が、「斬新なことをして斬新な結果を出すとたくさん批判される」という言葉を私たちにかけました。私の性格は、みんなが右に行くなら自分は左に行ってみて本当に左が間違いなのか確かめてみようと思う性格なので、割とたくさんの人から批判を受けることが多いです。それらの批判を全て消し去るくらいに考えに考え、吟味して、結果を学会や論文で発表した時に、幸にして、私の場合には賞賛してくれる研究者がいました。その時に、心からこの研究を貫いて良かったと思いました(その過程で折れそうになる私を支えてくださった方々がいたことも忘れてはなりません)。そして、その発表した論文が引用されるのみならず、「この手法をウチでも使わせてほしいから協力してほしい」等、と世界中のラボから協力依頼が入り、またそれを基に新しい研究が拡がっていくのを見た時に最大のやりがいを感じました。

人類のために貢献をする、というのが人生最大のやりがいであると私は思っており、そのやりがいを研究を通して体現できたことが私の人生最大の喜びかと思います。まだまだ研究者人生でやりたいことはたくさんあるので、これからも人類に貢献できるような斬新な研究を進めていきたいです。

まずは核図表を拡大させる(未知の原子核を合成する)ことです。未知の陽子数を持つ原子核を合成・確認すれば、それはニホニウムのように新元素の発見となります。現在の周期表に従うと、 次の119番元素は第8周期の1族に入る予定です。新しい第8周期の元素を人類が手にするということも感慨深いですが、その元素が1族としての性質を持っているのか? - 1族の元素は反応性が高く燃えやすいが119番元素も燃えてしまうのか?-ということに私は大きな興味があります。

新元素の興味も大きいですが、個人的には新同位体(既知の原子核とは異なる中性子数を持つ原子核)の合成にも興味があります。現在、118番までの元素が合成・確認されていますが、いくつかの元素は寿命が化学操作に必要な時間より短いため(1秒以下程度)、その化学的性質が不明です。次の魔法数(いわゆる安定の島)によって安定性を増す中性子過剰な同位体を作ることで、長寿命な原子核を合成し、その化学的性質が解明されていく可能性があります。その先には、超重元素を用いた応用研究があり、豊かな人類の将来に貢献するだろうと期待しています。

とても1人では叶えきれない夢なので、たくさんの学生さんや若い研究者を原子核分野、特に超重元素などの研究分野に引き込んで、たくさんの研究者を育てながら大きな目標に向かっていけたらなと思います。次世代を担う、若い学生さんや研究者を育てることも未来への投資であり、自分の研究以上に大事なことと思い、研究指導をしています。

研究概要でも述べたようにニホニウムのような現在の新元素を作るには数百日という日数がかかってしまいますが、新しい核反応機構の発見や実験技術の向上によってこの時間は大幅に減少できるのではないかと思っています。その先に、大量の元素を作ってその性質を調べるのみならず、応用研究へと繋げていく道筋があると期待しています。この感覚は幼い頃に壊れかけた家電製品を分解し、原理を理解して修理して、動くようになり、人の役に立てた嬉しさを味わった時に似たものがあります。

最先端を切り拓く基礎研究も、世に役立つ応用研究も、どちらにも貢献したいという人が学んで損をしない学問が原子核物理学だと思います。上記では私の研究分野である(超)重元素研究を挙げましたが、他の原子核分野でも基礎を切り拓く研究とともに世に役立つ応用研究も互いに切磋琢磨しながら繰り広げられています。特に、次世代を担う、若い学生さんや研究者の方々に、原子核分野へ興味・関心を持って頂き、原子核物理学研究の知見を用いて、将来の日本や世界が発展することを大いに期待します。


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