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九州大学 基幹教育院

福井 徳朗

Tokuro Fukui

主な経歴

2015年3月

大阪大学大学院 理学研究科物理学専攻 博士後期課程修了

2012年4月--2015年3月

日本学術振興会 特別研究員(DC1)

2015年3月--2016年9月

日本原子力研究開発機構 核データ研究センター 博士研究員

2016年9月--2018年8月

Istituto Nazionale di Fisica Nucleare (イタリア), Sezione di Napoli, Postdoctoral Fellow

2018年9月--2019年10月

Istituto Nazionale di Fisica Nucleare (イタリア), Sezione di Napoli 日本学術振興会海外特別研究員

2019年11月--2021年2月

京都大学 基礎物理学研究所 基研特任助教

2021年3月--2022年10月

理化学研究所 仁科加速器科学研究センター 基礎科学特別研究員

2022年11月--現在

九州大学 基幹教育院 助教

先鋭的理論で解き明かす核力と核子多体系の性質

私が原子核研究の道に進んだとき、正直に言うと、原子核を研究したいという強い想いがあったわけではありませんでした。思えば、私は「やりたいこと」を重視するよりも「できること」を重視してこれまでのキャリアや研究テーマを選んできたような気がします。何かを始めるきっかけが「できること」であっても、経験を積むうちに「やりたいこと」も自然と自分の中に生まれてくるようです。このようにして "出会った" 原子核ですが、今ではこの分野を選んでよかったと思っていますし、やりたい研究がたくさんあります。

最近は3つの核子間に働く3核子力を理論的に研究しています。2核子間の相互作用はこれまでの先人達の研究によってある程度理解が深まりましたが、3核子力そのものの性質、そして3核子力が核子多体系をどのように支配しているのかは、未だ全容がつかめていません。

3核子力に関する最近の我々の研究を簡単に紹介します。原子内の電子がつくる殻構造のように、原子核においても核子が殻構造を形成する描像がしばしば成り立ちます。この殻構造の発達に2核子力と同じくらい、3核子力も重要な寄与は果たしていることに我々は気づきました。3核子力は2核子力と比較すると飽くまで補正程度の効果しかないと言われることがありますが、核子多体系ではその効果は決して補正のレベルではなく、本質的に欠かすことのできない存在であるということを我々の研究は示唆しています。

現在は3核子力がどのようなメカニズムで殻構造を発達させるのか、そして3核子力はなぜこれほど強く作用するのかという問の答え探しています。メカニズムについてはその尻尾をつかむところまできており、全体像を早く見たいという思いでワクワクしています。

私にとっての研究のやりがいは以下の2点です。

1. 多くの「師」に出会える
学生時代の指導教員との研究に始まり、ポスドクとして研究機関を変えるたび、様々なタイプの研究者との共同研究に臨みました。彼らから様々なことを学び、自身の成長を実感することができました。いずれの共同研究者も私にとって「師」と呼べる人たちであり、そのような繋がりを築くことができたのは大きな財産です。

2. 自分なりの「作品」を生み出しているという感覚を得られる
研究では論文を執筆したり、定式化をノートにまとめたり(100ページを超えることもあります)、数値計算コードをプログラミングしたりします。その過程で生まれる成果物は私にとっての「作品」であり、それを生み出す喜びと苦しみを同時に感じられることは、私にとっての研究のやりがいです。

研究では3核子力の謎を解き明かしたいです。具体的には、(a) なぜ3核子力が従来の予想よりもはるかに強いのかを解明すること、(b) 核子数や密度の変化によって3核子力が引力から斥力に変わることを解明すること、(c) 3核子力がクラスター構造を誘起しうるという自身の仮説を検証することなどです。このような挑戦の先にあるのは、例えば原子核における創発現象の理解や(とある実験研究者の話から創発現象の面白さに気づきました)、核力が何十桁もの時間・空間スケールを超えて宇宙・天体現象に及ぼす影響を知ることに繋がるのではないかと思っています。

また、「サイエンスバル」のようなものを企画してみたいです。これは夜に開催するサイエンスカフェのようなもので、飲食店などでお酒を飲みながら、科学者と一般の方々(大人)が科学についてコミュニケーションを取り合うというものを想定しています。過去にイタリアでポスドクをやっていたころ、所属機関がこのような活動をしていました。それを見て、日本でも試してみたいと思い至りました。イタリアでは、科学が市民にとってとても身近であるように感じました。

多様性が叫ばれる昨今ですが、原子核は多様性の権化であり、そこが面白さだと思っています。つまり、原子核は多様な性質を示し、そしてその理解もまた必ずしも一つとは限らず、研究者によって考え方や捉え方が異なりうるということです。もちろん共通理解が得られ、考えが一つに収束することも素晴らしいことですが、すべての研究者の考えや感じ方が同じではつまらないと思います。

例えば、核力には最も重要な成分であるテンソル力(2つの磁石間に働く力に類似した相互作用)がありますが、それは一見矛盾するような二面性を持っています。先人の言葉を借りると、「高運動量だが長距離」と表現されます(量子力学では一般的にこれら2つの事実は逆のことを言っています)。

また、原子核におけるクラスター現象も多様性の観点から語ることができるでしょう。原子核ではしばしば核内で強く相関する少数核子の塊(クラスター)が生まれており、クラスターが存在すること自体が多様性あるいは非一様性と言えます。一方で、核内で核子がほぼ相関を持たず自由に運動する描像も存在します。同じ原子核でも異なる描像に基づいて語られることがあり、そこに面白さがあるのではないでしょうか。クラスターの発現・発達の根源的なメカニズムも、人によって説明が異なるようです。私は核力に基づいた私なりの表現を見つけたいです。


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