第13回日本物理学会 若手奨励賞(実験核物理分野)受賞者
原子核談話会 - 日本物理学会若手奨励賞

日本物理学会実験核物理領域第13回若手奨励賞受賞者についてご報告致します。
核物理委員会のもとに設置された選考委員会で審議の上推薦し、2018年10月6日開催の日本物理学会理事会において、本多 良太郎氏(東北大学)・西 隆博氏(理化学研究所)・中塚 徳継氏(ダルムシュタット工科大学)の受賞が承認されました。
 おめでとうございます。
 3氏には3月に九州大学で開催される第74回年次大会において若手奨励賞受賞記念講演を行っていただきます。
以下は、対象論文と受賞理由です。          
                                          選考委員長 岩崎雅彦

 

本多 良太郎 氏
受賞対象論文
"Repulsion and absorption of the Σ-nucleus potential for Σ-- 5He in the 6Li(π-, K+) reaction
T. Harada, R. Honda, Y. Hirabayashi, Phys. Rev. C 97, 024601 (2018)
"Missing-mass spectroscopy with the reaction to search for "
R. Honda, M. Agnello, J. K. Ahn et. al., Phys. Rev. C 96, 014005 (2017)
Σ-N 相互作用に関する論文の主内容は、Σ-N(I=3/2)の斥力が強いことを示す重要な解析で、核力をフレーバーSU(3)に拡張して理解するための大きな手がかりを与えた。Σ-N 相互作用が斥力であることは既に知られていたが、候補者は理論専門家との共同研究を進め、グリーン関数法によるスペクトル関数との比較により斥力の強さを定量的に評価した。
Λハイパー核に関する論文の主内容は、の束縛状態がないことを確定した重要な実験データである。この研究では、候補者が中心となって、高頻度位置検出が可能なシンチレーションファイバー飛跡検出器とその読出し回路システムを開発した。これらシステムは、同実験グループだけではなく、他の実験グループにも採用されるなど大きく実験核物理分野に貢献している。

 

西 隆博 氏
受賞対象論文
" Spectroscopy of Pionic Atoms in (d,) Reaction and Angular Dependence of the Formation Cross Sections "
T. Nishi, K. Itahashi, G. P. A. Berg et. al., Phys. Rev. Lett. 120, 152505 (2018)
本論文は、核内におけるカイラル対称性の破れの部分的回復をπ中間子原子分光により明らかにしようとする研究である。理研BIBFにおいて極薄膜の錫同位体標的と分散整合光学系を用いることで、従来以上の広い角度領域に対して、高統計・高分解能測定に成功した。その結果、生成角依存性を解析できる形で高統計スペクトラムを収集し、π中間子の束縛エネルギーを極めて良い精度で決定した。この研究では、1s 原子状態が強く観測されるという理論予想に反して、π中間子錫原子の 1s, 2p 原子状態を同時に観測した。
カイラル対称性の破れの部分的回復を議論する上で絶対エネルギー較正精度がその鍵を握る。求めたい1s原子準位の核力によるエネルギーシフトだけでは、スペクトロメーターの絶対エネルギー較正が実験精度を支配してしまう。候補者は「クーロンポテンシャルから主にエネルギー値が決まる 2p 原子準位とのエネルギー差を利用すれば、2p 原子準位の核力によるシフトが小さいため、系統誤差を減らす極めて強力な実験手法となる」という事実を示した。
候補者は、高分解能化と高輝度化を同時に達成できる分散整合光学系の設計を遂行した。さらに、系統誤差を減らした新たな高精度分光手法を確立した候補者の功績は極めて大きい。

中塚 徳継 氏


受賞対象論文
" Observation of isoscalar and isovector dipole excitations in neutron-rich 20O"
N. Nakatsuka, H. Baba, T. Aumann et. al., Phys. Lett. B 768 (2017) 387
本論文は、中性子過剰核における低エネルギー双極子励起のアイソスピン依存性を調べるため、20O原子核の低励起状態に表れる 1- 準位の崩壊をクーロン励起が主なAuとの非弾性散乱反応と、核力励起が主なα非弾性散乱の組み合わせで同時計測し、アイソ・スカラー励起、アイソ・ベクター励起強度を分離し、求めたものである。励起強度自身に核構造としての興味があるだけでなく、この分離手法に新規性があり、他の研究者を大いに刺激し、すでに10個編程度の論文に引用されるなど、この分野の発展に大きく寄与している。さらなる分野発展に資するため、候補者にはα散乱におけるクーロン励起の寄与の評価や多重反応過程の取り扱いなど、より詳細で具体的な分析を行い、論文に発表することを期待する。さらに、周辺の軽い原子核での系統性な実験データが待たれる。候補者は、実験全般を主導し、液体He標的、検出装置の設計、建設に大きく寄与した。

以上

日本物理学会若手奨励賞へ戻る

© 2013 日本の原子核物理学研究
> サイトポリシー・免責事項 | 本ウェブサイトは、核物理懇談会ホームページ委員会が運営しています