選考委員会(委員長:下田正)による選考と核物理委員会による承認を経て、 第17回原子核談話会新人賞の受賞者が以下のように決定しました。 今回の受賞者は1名です。
受賞者:坂口聡志氏
東京大学院理学系研究科博士課程(2010年3月取得)
現職:九州大学理学研究院
学位論文:Elastic Scattering of Polarized Protons from Neutron-rich
Helium Isotopes at 71 MeV/A
坂口氏の業績評価(選考委員長 下田正)
中性子過剰核と陽子間のスピン・軌道ポテンシャルを測定するという未知の課題に向けて、偏極陽子標的の低磁場中での実現、偏極反転法の確立、偏極度絶対値の測定、散乱陽子測定系の開発といった一連の実験技術の開発で中心的役割を果たしたことが、丁寧に記述された学位論文から読み取れる。どの課題も大変な努力を要するものであるが、短時間にやり遂げて、 ~70MeV/u 6Heおよび8Heビームと偏極陽子標的との弾性散乱(differential cross sectionとanalyzing power)の測定に、世界で初めて成功した。さらに、光学模型を用いてデータ解析を行い、スピン・軌道ポテンシャルが安定核との散乱に比べてかなり浅いことを明らかにした。この原因を探るために、6Heの密度分布 をα+2nというクラスター構造を用いて微視的に求め、p-αおよびp-n有効相互作をfoldingすることによって p-6He間のスピン・軌道相互作用を求めた。そして、浅いスピン・軌道ポテンシャルの原因は、過剰中性子と陽子の相互作用はほとんどポテンシャルに寄与せず、αコアと陽子の相互作用が6Heと陽子のあいだのスピン・軌道相互作用の大部分を担っていることを明らかにした。空間的に大きく広がった過剰中性子の影響を実験的に明確に示した功績は大きい。